3話 ひときれー2ー
窓が、ガタガタとゆれている。
散乱する紙切れ。
机のうえを通る隙間風に吹かれて、
本の表紙がパタパタと音を立てている。
まちがいなく、
父の部屋だった・・・ー
「相変わらず、散らかってる・・・」
扉を開けるなり、
アユムは小さくため息をついた。
部屋の中はほぼ真っ暗で、
隙間風にたなびく紙の端だけが
テラテラと見え隠れしているのみだった。
それでもかなり散らかってるように見受けられる。
(明かりを・・・)
くもの巣がはっていそうな天井をアユムの手が舞う。
それらしいものをつかんで、ぐいっと下に引くと、
小さな豆電球がともった。
(む・・・)
とても小さい明かりなので、
部屋の端はひどく薄暗い。
逆に、光源の近くは不気味なくらい鮮やかで・・・。
かえって恐ろしいたたずまいを現したその部屋に、
アユムは眉をしかめた。
カタカタカタ
ふと、窓が軋む。
ヒョォォ・・・ヒュウ
窓のはしを風が通り抜ける。
「・・・・」
アユムは、無言で床をあさった。
床には、もとは机においてあったであろう書類が、
風によって散乱していたのだ。
(なにもかも・・・手をつけていないかのようだ)
と、アユムはこころの中でつぶやいた。
書類の表面には黒いインクでかかれたものや、
あかい添削が入ったものや、鉛筆で殴り書きされたものや、
ワープロの字で打ってあるものもあったが・・・。
それらは、すべて床に散乱していた。
「・・・」
そのひとつを手にとって見る。
「・・・なんだこれ」
紙の表面にはわけの分からない数式がならんでいる・・・。
普通の子供が見たら、
いかにも好奇心をかきたてられそうな文面だったが、
アユムはそれを横にほうった。
なぜなら、つまらなそうな字で書いてあったからである。
なにがつまらなそうかって、
父の、字の書き方が、だ。
これはきっと、父が学校に通っていたときの
覚書か何かであろうとアユムは推測した。
(次・・・)
と、アユムは床の書類にわずかに目を通したのみで、
机に視線を移した。
椅子によじのぼって、机の上に顔をよせる。
「・・・うん・・・?」
机のど真ん中に、メモ用紙が一切れあった。
その用紙は、何も書かれていないかのように白い。
ー窓が、目の前でガタガタとゆれる・・・ー
アユムはじっとメモ用紙をみつめた。
表面は茶色みがかっていて、
ずいぶん前のものだということがうかがえる・・・。
アユムは本格的に目をこらして、
メモ用紙を顔の前でひらひらと動かした。
ー風が、ヒュウヒュウと音をたてる・・・ー
紙の表面を見るには、
この部屋の明かりはあまりにたよりなかった。
(・・・もっと明るいところがいい)
アユムは再び、自分の部屋の方を見ると、
おぼろげに立ち上がった。
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