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4話 手にした秘密


アユムは自分の部屋に入るなり、
メモ用紙を目の前でひらひらさせた。
(・・あ・・)
と、しばらくもしないうちに、
テラテラと無機質に光るその表面に
わずかな鉛色の線が見えた・・・。
(鉛筆か・・・)
アユムはやや分かったような顔になって、
自分の机に移動した。
(鉛筆の粉は擦るとすぐにきえるから・・。
 きっと、他の紙と擦れて・・・)
父の書斎には多くの書類があった。
それに窓からの隙間風もあった・・・。
アユムはそんなことを考えながら、
机の電気をつけた。

ー風の音はもうしない・・ー

慎重にメモ用紙をながめていく・・・。

ー雨ももう止んだようだ・・ー

とても読み取れるものではなかったが、
それでもアユムは慎重に紙の表面を見ていった。

「がっ・・・こ・・・」

「・・う・・の」

「さんばんめ・・・の・・・さ」

「・・・る・・・」

いくらでも時間はあった・・・。
明かりに照らされている文字は非常に薄くて細かったが、
実のところそんなことは問題にならなかった。
要は・・・やる気と根気なのだ。

アユムはすべての文字を一通り眺め終えた後、
はじめから終わりまでをつないで読んだ。
「がっこうのさんばんめの
 さるすべりのきをのぞいてみて」
なぜか、すべて平仮名で書かれている上に殴り書きだったが、
ひとまずアユムはそのことを保留して、文面の言っていることに首をかしげた。
「学校の3番目のサルスベリの木を覗いてみて
 ・・・か」
学校と言うのはどこの学校か知らないが、
とりあえず、自分の通っている小学校にもサルスベリの木があることを思い出した。
(サルスベリの木・・・)
アユムはひらひらとメモ用紙をもてあそびながら、
イスをあとにした。
そして、再び父の書斎に入り、机の上にメモ用紙をもどした。
中身だけ分かればそれで用は済んだのだから。

「さてと・・・」
アユムは何事もなかったように、1階へと降りた。
のどを手でこすりながら冷蔵庫を開ける。
「お母さん、なにか飲み物無い?
 のどかわいた」

ー夜風はおだやかに流れていた。
 雲は静かにたなびいていた・・・ー

<2010/07/18 19:50:53> NO.7
キーワード:外伝1 ことつたえた日

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