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5話 ゆうひ


「5列目入っていいぞ~!」
ドスのきいた教員の声が響く。

アユムは水泳帽に髪の毛を入れなおし、
水中眼鏡をさっと装着した。
今日は学校の水泳教室の日だった・・・。

今日は水泳日和で空は青々として、
太陽はカンカンに照っている。
(体がこげそうだ・・・)
アユムは、言われるまでもなく水に入ると
そのまま頭までもぐった。
「一人クロール5本!行ってこい!」
ひんやりとした青い光の中で
プールの壁を蹴った。


このあと、アユムは
しばらくクロールと平泳ぎを泳がされて、
ターンの練習をさせられて、自由時間に友達とじゃれて、
水泳教室が終わるころにはすっかり夕方になってしまっていた。

「じゃあ。また明日」
と、アユムは友達に別れを告げると、
着替えを水泳バッグにつめて、髪を拭きながら校庭に出た。
プールで冷えた体に太陽の光が暖かくて気持ちいい・・・。

「はあ・・・」
肩にのしかかる様な疲れにため息が漏れる。
アユムは、暗くなり始めた校庭をのろのろと歩くと、
校門のところで立ち止まった。
(・・・・疲れた・・・)
少しだけふりかえって、
プールのほうを見る・・・。
(・・・明日もか・・・)
アユムは、水泳は苦手なほうではないし、
嫌いなわけでもなかったのだが、
疲れるのは好きではなかった。
(・・・ねむい・・・)
アユムは半ば意識を朦朧とさせながら
おぼつかない足取りで校門をでた。

・・・ザワザワ・・・

(・・・・・・)
突然、何か音がしたと思って右のほうをみると、
そこには数本のサルスベリの木が植わっていた。
(ああ。
 そうか・・・)
アユムは今までの眠気が少し覚めるのを感じた。
(この学校にも、
 サルスベリの木があったんだった・・・)
アユムはサルスベリの木に近づきながら、
前の日の夜に見つけたメモの言葉を思い出した。

ーがっこうのさんばんめのさるすべりのきをのぞいてみて・・ー

(「さんばんめ」・・・)
どこから三番目なのかは分からなかったが、
とりあえず校門から一番目二番目と数えていった・・・。
「これかな・・・」
三番目と思われる木を撫でさすってみる。
土ぼこりにさらされているその木は、
サルスベリというだけあって滑らかだった。

・・・ざわざわ・・・

木の影が風に合わせてゆらゆらと地面をすべる。
(暗くなってきた・・・)
と、アユムは夕日を見て目を細めた。
(そろそろ、帰らないと)

途中で調べるのを止めるのはしゃくだったが、
しかたがなかった。
地面に置いていた水泳鞄をとって、
サルスベリの木に背を向ける。

と、その時。



バサ・・・バサバサ・・・

「・・・?」


後ろから、
布のたなびくような音が聞こえてくる・・・。
しかも、とても上のほうから・・・。

・・・ミシッ・・ミシッ・・・

続いて、木のしなる音。
夕日はもう沈みかけていた・・・。


バサバサ・・・ミシッミシッ・・・バサッ
ミシミシッ・・バサバサバサバサ・・ミシッ
バサバサバサ・・・

(・・・何か、生き物・・・?)
風に合わせて両方の音が絶えず聞こえてくる・・。
アユムは体を凍りつかせたまま、
振り返りたいような振り返りたくないような衝動にかられた。

(そっと・・・)

アユムは意を決して顔だけ振り返った。
ただ
その正体がしりたくて・・・。


ドクンッ


(ヒラヒラ・・・
 ・・布・・・)

アユムは声にならない言葉を唇で形作った。
空気だけがむなしく口を出入りする。

(・・・人・・・なんで・・
 ・・・木の・・上・・・・・・・)

心臓が速く波打った・・・。

木の枝の上に、
着物のようなものを着た人物が立っていたのだ。
うしろを向いて。


ビュウビュウ


風が地面を駆け抜けると、
その人物の着物もバサバサと音を立ててなびく。

「・・・ひっ・・・」

アユムは後ろに飛び退いた。
そして、

「ば・・・けもの・・・」

かろうじてそれだけが、
唇からとびだした。

ミシ・・・

アユムの声が聞こえたのか、
木の上の人物が、ゆっくりとこちらを振り向く・・・。


・・・その

顔にはー・・

真っ白の面がー・・・


「うあぁああああ!!!!」



<2010/07/18 19:52:06> NO.8
キーワード:外伝1 ことつたえた日

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